近年の特徴的な取り組み
   

 福岡県大牟田市における住宅地区改良事業

業務実施年度  1997年(平成9)年度
発注者  福岡県大牟田市/(財)国土開発技術研究センター
担当  (株)首都圏総合計画研究所  井上 隆、山田 伸幸、肥田 大祐

福岡県大牟田市では、炭坑閉山に伴う炭坑住宅からの退去を迫られている住宅困窮者の為に、住宅地区改良法に準ずる要項に 基づく「炭住等地区改良事業」を実施し、改良住宅を供給した。(株)首都圏総合計画研究所では、事業の導入支援および改良住 宅の基本設計を行った。本事業は、複数の小規模な事業地区を同時施行し、改良住宅は1ヶ所に集約建設するなど、いくつかの点で特徴的なもので あった。本事業及び担当業務の概要を紹介する。

   
■大牟田市の位置                  ■事業の組立 

1.背景
福岡県大牟田市は、明治以降、枢要な産炭地として栄 え、我が国の重要なエネルギー源として石炭を全国に供給してきた。しかし、昭和30年代後半から始まったエネルギー革命に伴う国の政策の転換により、大牟田市の石炭産業は徐々に衰退し始め、ついに平成9年3月30日に 三井三池炭鉱は閉山に至った。
 現在でも、市内随所にかつての繁栄の跡がみられるが、 炭鉱関連労働者向けに建設された炭鉱住宅もその1つである。炭鉱住宅は閉山時点で市内に約1,600戸残されて おり、炭鉱関連労働者世帯の方々が社宅として生活を営んでいた。しかし、閉山により炭鉱住宅入居者は、閉山 後1年半までに炭鉱住宅から退去しなければならないという取り決めが三井鉱山と労働組合のもとで交わされ、 市としては、退去者の受け皿となる公的住宅の確保が緊急の課題となった。
 また、炭鉱住宅の多くは主に昭和初期に建設され、築 後相当の年数を経過し老朽化しているとともに、構造や設備も一定居住水準に達しておらず、早急な環境の改善 が求められる状況にあった。
 大牟田市においては、閉山に伴い解雇される炭鉱住宅 に居住する従業員に対する受け皿住宅対策として、平成9年3月初旬、市内にある炭鉱住宅の一部を住宅地区改 良法にもとづき市が買い取り、市営改良住宅として建て替えるという方針を示した。この方針を受け市は、住宅 地区改良事業(正しくは、要項に基づく炭住等地区改良事業)に関する資料作成及び改良住宅の基本設計等を 行った。

■炭住退去後の住まい 総数194  
(大牟田市アンケートより)
 
■事業地区の概要

2.(株)首都圏総合計画研究所の受託業務
 (株)首都圏総合計画研究所では、(財)国土開発技術研究センターと協力して、住宅地区改良事業に関する資料作成及び改良住宅の基本設計等のうち、以下の業務に関 連するコンサルティングを行った。
 ・事業手法および事業適用地区の検討
 ・整備基本構想・整備計画の作成
 ・住宅の不良度調査
 ・居住者への意向調査
 ・事業認可申請に向けての資料作成
 ・改良住宅(小規模地区改良住宅)の基本設計
   (設計 事務所と共同)

3.業務の概要
 1)適用事業

 住宅地区改良法に基づく住宅地区改良事業の導入は地区指定の基準からみて困難と考えられた。このため、産炭等 地域において特に適用が可能で、より地区指定要件のゆるい小規模住宅地区等改良事業における炭住等地区改良事業 (以降、炭住等地区改良事業と称す)を導入し、改良住宅(小規模改良住宅)の建設を進めることとした。また、事業地区については、事業適用条件を満たす20地区のうちより、様々な要因から事業適用にふさわしいと考 えられる14地区(表「事業地区の概要」参照)を事業対象とした。これら事業地区は、筑後地区の旧炭住地区におけ る改良事業としては初めての事例となった。
 2)事業の組み立て
 事業地区14地区は、ゆとりある住棟配置、空家の多さ等から住宅 戸数密度が低くなっていたため、各地区ごとに小規模改良住宅を建 設するのは効率的とはいえず、また限られた事業期間(閉山後1年 半)の中では困難と考えられた。そこで小規模改良住宅は、14地区 の中のまとまりのある敷地を有する1地区(「小浜南」地区)に他地 区の地区外建設分を含み、集約的に建設することとした。
 3)住宅の不良度調査・居住者への意向調査
 事業地区14地区において住宅の不良度調査を行ったところ、地区内の炭鉱住宅全てが住宅地区改良法に定義する 「不良住宅」と判定された。また、事業地区内の居住者(世帯主)に対し、小浜南地区の改良住宅への入居希望を募るアンケート調査を実施し た。その結果、全回答者の3分の2に当たる128人が入居を希望した(グラフ「炭住退去後の住まい」参照)。
 4)小規模改良住宅の建設
 居住者の意向調査を踏まえ、小浜南地区に小規模改良住宅128戸が建設さ れた。小規模改良住宅の基本設計においては、従前の平行住棟配置を踏襲し 周辺の街並みと調和する低層の住棟配置、地区住民の交流機能を持ったオー プンスペース、などの工夫を行った。小規模改良住宅は平成11年春に竣工 し、新たな生活が始まっている。
 なお、小浜南地区では、小規模改良住宅のほか雇用促進住宅(120戸)、戸 建分譲住宅が建設されるため、地区全体として調和の取れた街並みの形成を 図るべく、土地利用計画を検討した。

4.当業務の特色
 本改良事業には、一般の改良事業と比べいくつか特徴的な点が挙げられ る。以下、それを列記する。

 1)事業における企業の役割
 本事業においては、不良住宅除却、改良住宅建設中の仮住居の確保、事業 にともなう補償など、一般の改良事業においては施行者が行うものについ て、炭鉱住宅用地の所有者である企業側(三井鉱山)が行った。
 本事業は、事業地区内の土地・建物が全て一企業所有という特殊な例であ るため、事業において企業側は一定の役割分担を行ない、施行者の負担を軽 減することとなった。
 2)短期間の改良住宅建設
 前述の通り、炭鉱住宅居住者は閉山後遅くとも1年半以内には退去する必 要があったため、炭鉱住宅居住者の救済のために改良住宅を早急に建設する ことが求められ、結果的に閉山後約2年で受け皿住宅の完成・入居が可能と なった。これは、改良事業のように事業上の手続きが比較的簡便な事業だったから こそ、このような短期間での住宅困窮者への住宅供給が可能だったといえ る。
 3)任意事業による改良事業
 本改良事業は、任意事業(要綱事業)である「小規模住宅地区等改良事業」(当地区の場合は「炭住等地区改良事 業」)として施行された。法定事業の場合、事業によって建設できる住宅は改良住宅のほか公的住宅に限定されるが、 任意事業の場合には小規模改良住宅、公営住宅の他、「その他」の住宅建設も認められている。このため、小浜南地 区には小規模改良住宅の他、雇用促進住宅、戸建て分譲住宅等、多様な住宅供給を行なうことができたといえる。

■炭鉱住宅の様子

  
      (小浜南地区)    (山の上地区)              (入船地区)

■竣工後の改良住宅(小浜南地区)の様子
  

5.担当者よりひとこと
 入社して始めての仕事、しかも当社としては非常に珍しい地方での仕事だったので、何もかもが新鮮で、無我夢中 と言った感じでした。慣れないことから失敗も多く、それだけに強く心に残っています。また、石炭から石油へのエ ネルギー転換といった時代の大きな流れに翻弄された大牟田のまちのありようにも大いに考えさせられました。改良 事業のみならず、総合的な施策によって、大牟田のまちが再び元気を取り戻すことを祈らずにはいられません。
 非常に短期間で「形になる」仕事、というのも当社としては珍しいものです。しかし、基本設計までの仕事だった ので、竣工後の改良住宅をまだ見ていません(笑)。そのうち、ぜひ見学に行きたいものです。




■諸元表       

  

(2000.10.2. 文責 肥田)
     
 
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